戦争の渦中で少女期を迎えた著者。実体験した戦争の悲哀を綴る。
そして、戦後の昭和、平成、令和と激動のなかで生き、家族、世相、自然の移ろいなどを女性として、主婦として、母としての視点から詩作する。挿画は夫で画家の小作青史。

私の「父帰る」 (本書より抜粋)

その日
朝起きたとき母はもういなくて
廊下にから拭きをかけている祖母が言った
「今日 お父さんが帰ってくる」
「どこから」
「―」
戦争が終って二ヶ月余り
十月の末の真っ暗な夕刻のことだった 
足音のしないまま玄関のガラス戸が激しく開いて
「のりこぉ! くみこぉ!」と
力のない叫び声が聞こえた
と 居間の入口のうす暗い角に
見たこともない男の人が立っていた


・A4変型判(260×223㎜)
・上製本 カバー掛け 総82頁
・詩45篇
・挿画/小作青史 23点 

■定価 2,000円(本体1,818円)
ISBN978-4-947666-84-0


【主な掲載詩】

第一章 私の「父帰る」 

・椰子の実
・もともと 空だった
・大空襲の夜の月 
・三月十日 
・二つの太陽
・奈落の底
・原爆被災者名簿
・玉音放送を聴いて
・「八月十五日」
・「シゲルズ ランチボックス」
・水の骨
・るり色の皿  

第二章 大欅  

・春の雨
・何の花
・柿若葉
・酷暑を越えて
・晩秋
・少しだけ泣いて
・寒の雨
・断末魔の声
・泣いてはいない
・別居 
・お互い 自画自賛
・三十五年間も  

■著者略歴

小作久美子(おざく くみこ 1937-)

和歌山県生まれ。1944年、父は治安維持法違反により検挙、収監され45年敗戦に伴い釈放される。
62年、東京藝術大学音楽学部音楽専攻科修了し、画家・小作青史と結婚。主婦業の傍ら詩作をはじめ新聞等に投稿。80年から数々の詩誌に詩を発表する。

■挿画

小作青史(おざく せいし 1936-)

東京都生まれ。東京藝術大学美術学部修了。多摩美術大学名誉教授。自由美術協会会員。日本版画協会名誉会員。